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セミナー論文「骨粗鬆症と歯周疾患」

高石佳知

近年、歯周疾患が全身疾患との関わりで注目されてきました。1998年米国のニューマン教授他により、歯槽疾患の原因菌のいくつかが、心血管系疾患、低体重児出産、呼吸器疾患、糖尿病等、全身疾患の危険因子であることを発表し、大反響をよびました。歯周疾患は、目に見えず、痛みがないため「沈黙の疾患」とされてきましたが、その認識はもはや古く、骨組織が破壊される「骨の病気」ととらえるべきであり、その95%は予防可能であると報告されています。

また、最近大変注目されているのが、潜在患者1000万人とも言われる骨粗鬆症です。高齢化社会にともない、原発性骨粗鬆症、続発性骨粗鬆症を含め、今後さらに取り沙汰されるものと考えられます。

また、平成8年公衆衛生審議会の意見具申「生活習慣に着目した疾病対策の基本的方向性について」のなかで、生活習慣病の分類があります。

生活習慣病の分類
1) 食習慣と関連するもの : インスリン非依存性糖尿病、肥満、
                    高脂血症(家族性のものを除く)、高尿酸血症、
                    循環器病(先天性のものを除く)、大腸がん(家族性のものを除く)、
                    歯周病、など
2) 運動習慣と関連するもの : インスリン非依存性糖尿病、肥満、
                     高脂血症(家族性のものを除く)、高血圧症、など
3) 禁煙に関するもの :: 肺扁平上皮ガン、循環器病(先天性のものを除く)、慢性気管支炎、
                  肺気腫、歯周病、など
4) 飲酒に関連するもの : アルコール性肝疾患、など

この様に、生活習慣と多くの疾病との関連が明らかになるにつれて、健康的な生活習慣を確立し、歯周疾患の発症を予防する第一次予防の考え方が重視されてきました。さらに、歯周疾患の治療は、歯周組織を単に治すのみではなく、全身疾患の発症、進行を改善または、予防することが次第に明らかになってまいりました。
骨粗鬆症と歯周疾患の関連も明らかにされてきています。骨粗鬆症で歯周疾患の患者さんに対しては、歯周疾患だけでなく、骨粗鬆症への配慮、具体的には栄養やホルモン分泌などの面に対しても配慮しながら、治療を進めていかなければならないと考えます。今回のセミナーについて、幾つかご提案させて頂きます。

歯周疾患のなかで臨床的にもっとも重要な点は、歯槽骨の吸収である。Jeffcoat、Reddyらによると、歯周病における歯槽骨退縮と骨粗鬆症における骨破壊には、同じ破骨細胞を介してのメカニズムが関与することが明らかとなった。歯周病による歯槽骨喪失に対する効果的な治療が、現在、最も必要とされている治療である。
一般的に、歯垢微生物ならびにその生成物が歯周病の主要原因であると考えられているが、抗生物質、抗炎症剤による治療は歯周炎の進行が部分的に抑制されるに過ぎない。そのため、抗生物質、収斂剤、含そう剤は長期にわたる有効な治療法ではない。また、歯周外科は歯槽骨の喪失に関わる。もちろん、ブラッシングによる歯垢除去、含そう剤の使用、歯石除去、キュレッテイジ、ルートプレーニング、ポリッシングは、歯周病の抑止に作用する基本治療である。

歯周病と骨粗鬆症
骨密度がその個人の所与のレベルより低下することを骨減少症(osteopenia)という。また、骨密度が骨格を維持できるレベル以下に低下し、骨折の危険性が増した状態を骨粗鬆症(osteopolosis)とよぶ。
骨粗鬆症は、明確に病的状態を指している言葉である。男女ともだいたい40歳前にはピーク値に達し、その後は低下傾向をたどって、女性では50歳代に、男性では、80歳代に、骨折の危険性が出てくるレベルまで低下する。骨量はいったんピーク値に達した後は低下するだけで、40歳代、50歳代になって再上昇することはありえない。したがって、後年における骨粗鬆症の発症を予防するためには、いかに若年時に豊富にカルシウムを摂取し、骨量のピーク値を高めるかということと、その後の低下の速度をいかに緩めるかということが重要になってくる。

骨密度と歯周病に密接な関係
歯周病は歯周プラークに存在する細菌類による幹線の結果、歯周組織に炎症が惹起せれ、そこから歯周組織の破壊がもたらされる疾患である。歯周病の病原細菌は多くがグラム陰性で、多くの毒素や酵素類を放出し、歯周組織の蛋白質や免疫細胞を刺激し、活性化する。その結果、歯周組織に炎症が拡大し、歯周組織の結合織や骨などが破壊される。もし、骨減少症や骨粗鬆症のために歯周組織の骨も骨量や骨密度の低下を来たしていたら、歯周病による炎症の拡大はより容易になる。歯周病における歯周組織の破壊をより容易にする役割、言い換えれば、破壊への閾値を下げる役割をしているといえる。
骨粗鬆症の人に歯の抜けた人が多いことは、よく知られている。また、骨粗鬆症の人では下顎の骨が薄く、義歯の装着が難しいこともよく報告されている。骨密度に関しては、二重X線吸収測定法を用いて腰椎、大腿、下顎の骨密度を測定した。歯周組織の状態に関しては、アtッチメントロス、歯槽骨頂の高さ、歯の欠損、ポケットの深さ、プラーク、歯肉炎指数などを測定した。その結果、全身の骨密度、特に大腿の骨密度と歯周組織の状態との間には密接な関連があることがみとめられた。

閉経後の女性では骨密度と歯周病との関連リスクはさらに高まる
コホート研究によると-NHANES(National Health and Nutrition Examination Survey)Ⅲとよばれる研究-対象として男性5922名、女性5732名を歯周組織に病変のある群とない群に分けて、それぞれの平均年齢、アタッチメントロス、喫煙者の割合、骨密度などを調査した。男女とも、歯周病群では非歯周病群に比べて、明らかに平均年齢は高く、アタッチメントロスは大きく、喫煙者の割合は高く、骨密度は低い。臀部全体の骨密度でみた場合、臀部に骨減少症がある場合はない場合に比べて、1.8倍歯周病を発症する率が高いということになる。
閉経後の女性だけについて歯周病と骨密度との関連リスクはさらに高くなる。
また、NHANESⅢでは、歯の欠損と骨密度との関連についても調査しているが、やはり骨密度の低下しているほど歯の欠損も多いという結果であった。

エストロゲン欠乏が骨吸収の促進を介して歯周病を発症、進展させる
閉経後の女性で骨減少症や骨粗鬆症が多いということに関しては、当然、女性ホルモン欠乏による影響が考えられる.。最近の研究でも、エストロゲンが骨に直接働きかけて骨形成を促進させる他、骨吸収のサイトカイン類の産生抑制を介して、間接的に骨形成を促進することなどが明らかにされている。
エストロゲン欠乏はマクロファージや骨芽細胞のアップレギュレーションを招き、それらへの内毒素、すなわちLPS(リポ多糖類)の刺激により骨吸収性のサイトカイン類が過剰に産生される。これにより骨吸収が促進されるとともに、コラーゲン組織も破壊され、歯周病発症と進展の素地が形成されるわけである。
エリー群スタディー(Erie County Study)とよばれる研究では、エストロゲン欠乏と歯周病発症との関連について検討している。対象は25-74歳の女性でこれを閉経前の女性と閉経後に分け、歯周組織の状態を比較した。その結果、閉経後の女性は閉経前の女性に比べてアタッチメントロスが大きいが、閉経後でもエストロゲン補充療法を受けている女性は受けていない女性に比べて、アタッチメントロスの拡大は抑制されていた。同じことは歯槽骨吸収に関してもいえ、閉経によりもたらされる深刻な歯槽骨吸収は、エストロゲン補充療法により、かなり抑制されることが認められた。

まとめ
以上から、骨減少症および骨粗鬆症が歯周病の発症、進行に密接に関連することは明白である。また、骨粗鬆症と歯周病の関連もはっきりしたわけですから、骨粗鬆症で歯周病の患者さんに対しては、歯周病だけでなく骨粗鬆症への配慮、具体的には栄養やホルモン分泌などの面に対しても配慮しながら、治療を進めていかなければならないと考えます。
今後、特に閉経後の女性においては、骨粗鬆症対策とともに歯周病予防の有効な手立てを考えることが急務であり、今回のセミナーが正にその解決法を見出す手立てとなるものと確信しています。
私たちは、歯科診療の大きな変換点にいます。歯学と医学の協力体制が正にスタートし、歯周病の予防が全身の健康に寄与し、歯学と医学の融和した新しい歯科医療を構築しようではありませんか。

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