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ビスホスホネートと歯周疾患

高石佳知

Summary
ビスホスホネートは、骨の構成成分であるハイドロキシアパタイトに特異的に強い親和性をもち、これを保護、固定する作用を基本とする。破骨細胞の機能を直接に、または骨芽細胞を介して間接的に抑制し、骨吸収を強力に抑制する。また、H+分泌の抑制作用をもつ。歯牙を支える歯槽骨が、歯周疾患において、歯周疾患の病原性菌内毒素、プロスタグランジン合成を促す補体活性化因子、遅延型アレルギーにもとづく破骨細胞活性化因子により吸収が進行することから、歯周病に対しても、ビスホスホネート投与は、歯周病による歯槽骨、顎骨の吸収を抑制し、歯周病の治療に寄与する可能性が伺える。

はじめに
歯周病は、世界の人口の95%以上に影響を与えうる世界的な疾患である。
歯周疾患のなかで臨床的にもっとも重要な点は、歯槽骨の吸収である。Jeffcoat、Reddyらによると、歯周病における歯槽骨退縮と骨粗鬆症における骨破壊には、同じメカニズムが関与することが明らかとなった。歯周病による歯槽骨喪失に対する効果的な治療が、現在、最も必要とされている治療である。
一般的に、歯垢微生物ならびにその生成物が歯周病の主要原因であると考えられているが、抗生物質、抗炎症剤による治療は歯周炎の進行が部分的に抑制されるに過ぎない。そのため、抗生物質、収斂剤、含そう剤は長期にわたる有効な治療法ではない。また、歯周外科は歯槽骨の喪失に関わる。もちろん、ブラッシングによる歯垢除去、含そう剤の使用、歯石除去、キュレッテイジ、ルートプレーニング、ポリッシングは、歯周病の抑止に作用する基本治療である。
しかしながら、最近、歯周炎を含む広範なカルシウム代謝障害の治療におけるいくつかのビスホスホネートの使用により、ビスホスホネートが骨吸収に対して抑制作用を有するとの報告がある。
そこで、歯周疾患は骨の疾病であり、発症原因を理解することにより、歯周病に対してのビスホスホネートの歯槽骨吸収抑制作用、歯槽骨量増加作用について考察してみる。

Ⅰ.ビスホスホネートとは
血清中のカルシウム、リン酸は生理的に過飽和状態にあるにもかかわらず組織の石灰化は骨などの限られた組織にしか起こらない。これは生理的な石灰化抑制物質であるピロリン酸の作用によるとされている。しかし、ピロリン酸は生体内で酵素により容易に分解されるため、P-C-P構造を有するビスホスホネートが開発され、酵素による分解を受けない石灰化欲製薬として開発された。のちにビスホスホネートの低用量での骨吸収抑制作用が発見された。すなわち、ビスホスホネートは大量投与によって化学的に骨塩の結晶化を阻害することにより石灰化抑制作用を発揮するが、低用量投与では石灰化抑制作用がなく、破骨細胞の機能抑制による骨吸収抑制作用をもつ。
ビスホスホネートの種類としては、中央のCに付く誘導体の種類により3種類に分類されている。側鎖がエチドロネートやクロドロネートのように構造が簡単なもの、アレンドロネートやイバンドロネートのようなアミの基のあるもの、インカドロネート、リセドロネート、ミノドロネートのような環状構造を有するものがある。
最近、これらの薬剤の破骨細胞に対する作用機序には、ATP依存性酵素阻害、あるいはイソプレノイド生成阻害の可能性が提唱されている。 ヒトでは、長期投与によって著明な破骨細胞数の減少がしばしば起こることから、骨吸収の抑制は破骨細胞の数が減少することによる可能性がある。エチドロネートは、破骨細胞の骨吸収活性を直接抑制し、他のビスホスホネートと同様に、破骨細胞に直接作用し、細胞死を引き起こす。この現象は、破骨細胞がビスホスホネートを含む骨に接触することでおそらくアポトーシスにより破壊されたり、新しい細胞のリクルートメントが抑制されることによると考えられる。
時間的に比較的早い時期に起こる効果は破骨細胞に対する直接作用で、破骨細胞が減少するようなより慢性的な作用は、骨芽細胞を介する作用と考えることも可能である。
ビスホスホネートは、マクロファージから放出されるサイトカインであるセレクチンの抑制作用を持つ。クロドロネートは、活性化されたマクロファージにより産生される炎症性のサイトカインが引き起こす局所の炎症に有利な作用を持つ。また、エチドロネートは、新生骨のリモデリング活性を抑制し、骨添加を増加させる可能性がある。
ビスホスホネートの薬物動態として、経口投与されたビスホスホネートの腸管からの吸収率は低く、数パーセント以下といわれている。26-29歳の健常者へのエチドロネート投与では平均3.9%で0.7-8.9%とかなり幅がある。さらに胃内容物が存在すると、ビスホスホネートと食物中のカルシウムが結合するため、ほとんどが体内に吸収されない。したがって空腹時に内服することが必要である。また、ビスホスホネートはリン酸カルシウムに対して高い親和性を持ち、ほとんど選択的に石灰化組織だけに作用する驚くべき特性がある。この高い親和性により、ビスホスホネートは、血中からすみやかに消失し、石灰化組織、特に骨組織に取り込まれる。
そして、骨量(BMD)に対する効果として、64歳の閉経後骨粗鬆症患者を対象としたエチドロネート200-400mgの間歇投与では、6ヶ月で腰椎質量は3.6%、2年後には5.8%の有意な増加を認めている。
そして、日本はもとより各国で骨粗鬆症の治療薬として認可されている。また、日本人に対するアレンドロネート投与により、年間6.2%の腰椎骨量増加効果を認めた。
Ⅱ.骨粗鬆症と歯周病
高齢化が進むわが国では、2015年には4人に1人が65歳以上になると予測されている。この高齢化社会において2000年の推定人口から骨粗鬆症人口を算定すると、40歳以上では約1000万人になる。
近年、患者数の増加が見込まれる骨粗鬆症に起因する全身の骨量減少と歯周炎による局所の歯槽骨吸収との因果関係に関心が持たれてきた。
1990年代になり、von Wowernらは、白人26名の骨粗鬆症所見と歯周病所見を比較し、骨粗鬆症群では対照群に比べ、0.8mmの付着歯肉の喪失を認めたとしている。骨粗鬆症女性のアタッチメントロスは約3.5mm、正常女性のアタッチメントロスは約2.7mmである。また、Mohammadらは、コホート研究を565名からランダムに抽出した閉経後骨粗鬆症患者で、歯周病を併発している白人42名において、腰椎骨密度とアタッチメントレベル、とくに歯肉の退縮との間に相関が見られたと報告している。
また、閉経後成人女性で、腰椎骨萎縮所見が認められると、歯周病活動度が高く、その傾向は上顎においてより強い可能性が示唆された。また、卵巣摘出による続発性骨粗鬆症患者では、発症した歯周炎が進行する可能性が示唆された。この他、骨粗鬆症患者の歯周病について経時的な調査から、骨粗鬆症患者では歯周病が進行傾向にあると報告されている。その結果、骨粗鬆症は歯周病のリスク因子として扱われたり、潜在的リスク因子(potential risk factor)として考慮されてきている。しかし、歯槽骨吸収を伴う歯周病に効果があるとの報告はほとんど無かったが、最近、歯周病にビスホスホネートが効果があることが報告されている。アレンドロネートは多くの国において骨粗鬆症の治療に使用されているが、Reddyは、ビーグル犬の歯周炎に、アレンドロネートが効果のあることを報告している。また、リセドロネートが、ラットの右側下顎第一大臼歯の歯頚部にゴムリングを巻いて実験的に引き起こした歯周炎に対して骨吸収の抑制に効果があるとの報告がある。また、インカドロネートは、ビーグル犬に実験的に引き起こした歯周炎に対して、歯槽骨吸収を抑制した。また、SRP(盲嚢掻爬)に加えてアレンドロネートを投与したものが歯槽骨の喪失をする割合が低いことを証明している。

これらから、歯周病における歯槽骨退縮と骨粗鬆症における骨破壊には、同じメカニズムが関与することが明らかとなった。ビスホスホネートは、閉経後女性の骨粗鬆症治療に用いられている。この薬剤は破骨細胞の骨吸収を抑制する。ビスホスホネートはピロ燐酸のアナログで、骨のハイドロキシアパタイトに強く結合する。骨粗鬆症患者の臨床試験において、アレンドロネートはBMD低下を抑制した。また、SRPに加えてアレンドロネートを投与したものが歯槽骨喪失の割合が低いことが証明された。その歯周病の結果は、骨粗鬆症における結果を補強した。これらの結果は、今まで実施された基礎実験における効果を裏付けるものである。基礎実験では、サルとイヌの糸結さつモデルにおけるビスホスホネートの効果を証明した。これらの試験において興味あることは,薬剤投与期間をすぎて3ヵ月後においても効果が認められていることである。規格エックス線写真の定量的な解析により歯槽骨の小さな変化が検出できることも再確認された。これにより、歯周病と骨粗鬆症で同じ治療法が共有できることが示された。

おわりに
ビスホスホネートの作用機序につては、なお不明な点が残されているものの、その骨吸収作用により、歯周疾患、とりわけ歯槽骨吸収を伴う慢性辺縁性歯周炎に対する治療薬としての有用性が伺われる。今後は、歯周疾患の強力な治療薬となりうるビスホスホネートの歯槽骨への局所投与が可能になり、歯周疾患とそれに関連する歯牙喪失予防の強力な治療薬となりうるものと期待される。

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